なぜ現場の前にNDAなのか?設計とDXがうまく進む理由
現場を見てから考える──その一歩手前で整えるべきこと
ある企業からNDAとともに大型ワークの相談と装置見学の打診をいただいた。
契約・現場・技術の三点をどう結ぶか。進行中の案件をきっかけに整理しておきたい。
直近の進展と気づき
今回の差分は三つ。
第一に、先方から守秘義務契約(NDA)を受領し、社内のリーガル確認に入ったこと。締結自体は前提として進めつつ、日付の扱いなど実務上の細部に注意を払いながら、数日内の合意を目指す段階に入った。ここで改めて気づいたのは、「技術の話を前に進めるには、秘密情報の境界を早めに揃えておくこと」が、結果として開発スピードを上げるということだ。後からの解釈ズレは、技術よりも人間関係に効く。
第二に、ワークサイズが「1×2m級」と具体化したこと。こちらの初期理解(1m角級)から一段階スケールが上がる。治具の考え方、ロボットの到達範囲、搬送や段取り替えの設計思想が変わるサイズ感だ。固定治具の一体物で押し切るより、リファレンス点を分割・標準化して、段階的に位置決めするモジュール式の方が良さそうだと腹をくくった。
視覚認識(ビジョン)についても、加工ラインや対象形状の抽出精度をどう「許容誤差」に落とすか、処理幅や重ね合わせ条件と整合を取る必要がある。
第三に、現場見学と打合せの段取りに目処が立ったこと。実機と現場を同時に見る機会は、本当にありがたい。机上で10往復する議論を、現場で30分で片づけられることが少なくない。今回は装置インターフェースの確認、安全面の前提、工程DXの種探しまで一気通貫で視るつもりだ。その分、こちらの準備不足はすぐ見透かされる。チェックリストと観察ポイントを、今のうちにシンプルにまとめておく。
専門の視点から(今回の論点)
今回の論点は「装置間インターフェース」「精度の逆算」「治具と段取り」「安全」「工程DXの入り口」の五つに整理できる。
装置間インターフェース
加工プロセスでは、ロボットの位置決めと装置側の処理制御が同じテンポで動いてはじめて安定した品質が出る。最低限、開始・停止・ビジー・アラーム・非常停止の信号連携、処理条件の切替、タクトタイムを左右する準備完了(ready)の扱いは早めに定義したい。
通信方式は何でも良いが、現場保守ができることが一番の要件だ。紙に描ける手順と、盤内で追える信号線。この二つがあれば立ち上げは速い。
精度の逆算
必要精度は「やりたい加工」から逆算するのが筋だ。例えば、処理幅や必要な重ね合わせ条件が決まれば、走査ピッチや位置決めの上限が見えてくる。そこにロボットの絶対精度、再現性、ビジョンの認識誤差、治具の繰り返し位置決め誤差を足し算すれば、システムとしての許容誤差が整理できる。
カメラ配置は処理点と同軸が理想だが、反射や照明の制約があればオフセット配置もやむなし。その場合は手眼協調(ハンドアイ)でのキャリブレーション手順と、再キャリブレーションの頻度を工程に織り込む必要がある。表面状態によっては、照明を強めるより「影を作る」発想が有効なこともある。
治具と段取り
1×2m級になると、ワークの「たわみ」が実害になる。基準面を欲張らず、位置決めピンと押えの組み合わせで「浮きを許容するエリア」と「絶対に動かしたくないエリア」を分ける。ロボットは届くが治具が重い、という事態も起きやすい。可搬の上限だけでなく、作業者が一人で段取り替えできる重量・手順に落とすことが、稼働初日の成功に直結する。
ベースは固定して、ワーク側にリファレンスマークを置くか、仮クランプで軽く押さえ、視覚で補正してから本締め──現場で決まる最短動線は、意外とこうした“小技”の組み合わせだ。
安全
高エネルギーを扱う装置は、便利である一方、リスクも高い。囲い、インターロック、警告表示、粉塵や煙の処理は、計画初日にラフスケッチで押さえる。工事区画の設定、アクセス制御、作業者教育と保護具もセットで考える。
安全は“後で”ではなく“最初から”の項目に昇格させた方が、トータルの手戻りが少ない。
工程DXの入り口
「人の作業のDX化」は、現場での観察がすべてだ。長時間・高負荷・高変動の三拍子が揃う工程は、投資対効果の紙計算より、ケガと欠品の防止に効く。まずは1日分の作業ログ(微細な中断理由や歩数を含む)を可視化し、改善仮説を3つ立てる。
すぐできる小改善(治具の置場、工具の色分け、作業姿勢の見直し)を先に回し、それでも残る“自動化したい理由”を抽出する。ロボットの出番は、その後の方が成功率が高い。
次の一手
- NDAを締結するための「要点シート」を1枚にまとめる
日付の扱い、情報の範囲、成果物の帰属、第三者提供の可否など、論点だけを箇条書きで整理し、リーガル確認を今日中に完了。先方へは“修正依頼”ではなく“合意したい文言候補”で返す。 - 現場見学の準備を“見える化”する
候補日を3つ提示しつつ、見学チェックリストを事前共有(装置インターフェース、安全、基準点、到達範囲、遮蔽・排気、搬送動線、床アンカー可否、想定タクト、清掃性など)。当日は測定道具と簡易マーカーを持参し、ワークの参照点を仮でマーキング→写真記録→戻ってからレイアウト案に直結できる形で記録する。 - 精度とタクトの“当たり”を先に作る
処理幅や重ね合わせ条件の仮定から走査ピッチと必要速度を逆算し、ロボット側の速度レンジと干渉チェックの前提をメモ化。手眼協調のキャリブレーション手順と再現性を、テストピースで翌週検証できるミニ計画に落とす。治具はモジュール案を2案スケッチして、段取り替え時間の見通しを数字で置く。
📘用語メモ(修正版)
- NDA(守秘義務契約):共同検討の前提として、相手の秘密情報を第三者に漏らさないことなどを取り決める契約。
- ワーク:加工や検査の対象となる製品・部材のこと。
- インターフェース:機器同士がやり取りする信号や通信、物理的な接続の取り決め。
- 重ね合わせ条件:処理範囲同士の重なり具合をどう設定するかという考え方。
- ハンドアイキャリブレーション:ロボット(手)とカメラ(目)の座標関係を一致させる調整手順。
- インターロック:危険状態を防ぐため、扉が開くと装置が停止する等の安全連動機能。
- タクトタイム:製品1個を完了させるのに必要なサイクル時間。
- 参照点(リファレンス):位置決めや測定の基準となる点・マーク・面のこと。

