「ロボット導入の前に見るべきこと|工程スキップと把持設計が鍵になる」
杉谷の独り言
── 共通化・工程スキップ・把持機構をめぐる現場の学び**
新しい生産ラインの最終調整に向けて、清掃工程の共通条件が固まり、例外型式の工程スキップ方針も明確になりました。技術窓口の一本化も進み、DR(デザインレビュー)に向けて準備の精度を上げた1週間。その裏側で見えてきた“現場が静かになる条件”をまとめておきます。
■ 最近の進展と気づき
今回大きかったのは、対象品の一部について
「特殊工程はライン内に残さず、外段取りに切り出す」
という設計前提が固まったことです。
具体的には、ねじ仕様の関係で必要になる“圧入(かしめ)工程”を、
穴あけ+清掃まではライン内、
追加加工はライン外で行う方針に整理しました。
これにより、
- ライン標準サイクルが乱れにくくなる
- 品質のバラつき源を一つ減らせる
- 例外処理をライン内に持ち込まなくて済む
というメリットがあります。
一方で当然ながら、
混流ラインでは「取り違え防止(ポカヨケ)」が必須 になります。
識別が緩いと、外段取りに出すべきものがラインに流れたり、その逆が起こる。
ここは“物理的に間違えられない仕組み”を必ずセットで考えます。
■ 清掃工程は「共通条件」でいける手応え
清掃工程(切粉・粉じんの除去)については、
全型式で共通のパルスブロー条件で成立しそうという見通しが立ちました。
今回の構成は、
- 連続吹きではなく短いパルス
- 反対側に吸引装置(再付着防止)を設置
- ノズル位置と治具のシール性を安定化
という組み合わせです。
共通化すると、
立上げ・調整・保全が格段に楽になります。
ただし“共通化の罠”もあります。
- 最薄肉や最小孔径など、境界条件での成立確認を必ず記録する
- 現場改善で“ちょっと設定をいじる”のが事故のもと
→ 変更はDR後の管理下で行う
共通化は正義。ただし「変えない運用」がセットで必要。
■ 技術窓口を一本化する意味
今回、協力先(設計・製造)からお客さま側の技術窓口へ、
確認事項を直接やり取りする体制 に整えました。
メリットは大きくて、
- 情報伝達のスピードが上がる
- 誤解が減る
- 決めるべきことが先に進む
その反面、今回のようにスピードが上がると、
版管理(どの資料が最新版か) を徹底しないと逆に手戻りが増えます。
問い合わせ → 回答 → 反映 → 版上げ → 通知
この流れを一度テンプレート化し、DR前に棚卸しをすることで、
会議が“調整の場”から“意思決定の場”に変わります。
■ 「箱詰め自動化」は今回は保留
技術的には容易でも、
投資対効果が見合うかどうかは別問題 です。
段ボールのバラつき、出荷パターンの揺らぎ、人員構成…。
もう少し現場データを取り、
フローの安定化と投資回収の見通しをセットにして判断することにしました。
“できるからやる”ではなく
“やる価値があるか”から考える
いいリマインドになりました。
■ 把持機構は電動か空圧か
既設設備のグリッパを、
電動から空圧(エアチャック)に戻す案 も再浮上しています。
それぞれメリットは明確です。
電動
- 握力を数値管理できる
- 位置・速度制御ができる
- 静かで環境に優しい
空圧
- 応答が速い
- 構造がシンプル
- 初期費用が抑えやすい
ただ、比較するときは本体価格だけでは不十分で、
配管工事、I/O追加、治具改造、ティーチングや検証の工数、
そしてトラブル時の復旧時間まで含めた 総保有コスト(TCO) で判断すべきです。
遠隔保守を前提にするなら、
着脱性や状態表示など“保全しやすい設計”も初期段階で織り込みたくなります。
■ 今回の核心
まとめると、今回見えてきたポイントは次の3つです。
① 工程の共通化
→ 最悪条件での成立確認と、設定変更ルールの徹底がカギ。
② 工程スキップと外段取り
→ ラインの安定度が上がる。
ただし混流管理のポカヨケは二重化が必須。
③ 把持機構の選定
→ 本体だけでなく、付帯設備・再ティーチング・保全を含めた総コストで判断する。
この3点が揃うと、
ラインは一気に静かになり、安定します。
■ 次のアクション
- DR準備
- 共通条件の成立記録
- 例外型式フロー+ポカヨケ
- 吸引装置側とのインタフェース整備
- 版管理ルールの合意
- 現地パラメータ試験
- 代表+境界サンプルで短時間シェイクダウン
- 騒音・空気消費・吸引効率の実測
- 把持機構の意思決定
- 比較シートを1枚にまとめ、30分ミーティングで結論を出す
- 決定後、検証・ティーチングの工期をすぐブロックする
■ 用語メモ(分かりやすく一言で)
- コスト:お金だけでなく、時間や手間など“かかるもの”全体。
- シール:空気や粉が漏れないように“密閉する”こと。
- ルール:みんなで守る決めごと。
- シンプル:余計なものがなく、扱いやすい状態。
- フロー:工程や作業の“流れ”。
- データ:判断や分析の材料になる“記録された情報”。
- ティーチング:ロボットに動きを教える作業。
- サイクル:製品1個を処理するのに必要な時間。

