「カメラを増やすな。厚み検出が勝つ理由|自動化は“足し算より引き算”が成功への近道」

杉谷の独り言

包装ラインの不良検知で、画像処理より「厚み検出」のほうが確からしい——そんな現場の声に背中を押され、提案の軸を見直しました。技術の足し算より、課題の引き算から始めるほうが速い場面があります。

直近の進展と気づき

ここ数日、ある企業の包装ラインに関するやり取りで、予定のすり合わせや用語の確認を重ねる中、「噛み込み」(袋の重なりや縫い外れに起因する不良)を見極める手段について方向性が固まりました。結論だけ言えば、画像処理の新規提案より、既設の厚み検出で十分に目的が果たせる——この判断です。私たちが得意とするカメラ・AIの引き出しをいったん閉じ、現場の確からしさに乗る。結果として当社の“出番”は限定的になるかもしれませんが、最短距離は往々にして「やらない選択」に宿ります。

同じラインでは既に、ロット印字の確認に画像検査、縫い外れのチェックに厚み検出が活用されています。今回の「噛み込み」も物理量(厚み)で直に捉えるほうが再現性と反応速度で有利、という現場判断に私も賛成です。一方で「協働ロボットの活用イメージはまだ持てていない」との率直な声もいただきました。ここは焦らず、センサーと治具で片づく課題はそちらを優先し、ロボットは「人に戻したい作業」や「安全・人手・姿勢」の観点で必要性が立ったら検討する——そんな順番に切り替えます。

なお、以前から話題に上がっていた微量原料の計量・投入工程は、歩留まりやトレーサビリティの観点で引き続き有望です。ただし、こちらもまずは手作業のバラツキ実測と簡易ポカヨケ(ミス防止)の効果測定から。機械を足す前に、工程を痩せさせること。今回の往復は、その原則を改めて教えてくれました。

専門の視点から(今回の論点)

今回の論点は「何で検知するか」。同じ不良でも、センサー選びで成否とコストが大きく変わります。

  • 厚み検出の強み
  • 物理現象に直結した量(重なり=厚み)を直接測るため、感度調整が明快で誤検知が少ない
  • 照明や袋の色・柄、粉じんの影響を受けにくく、保守が軽い
  • 応答が速く、ライン停止や選別機とのインターロックがシンプル
  • 弱点は、設置スペースと機械的な当て方(ガイド・ローラ)が要ること
  • 画像処理の強み
  • 多目的に使える(印字・汚れ・欠け・位置ズレなどを一本で面倒見られる)
  • (ある関係者)変更に柔軟(ソフト変更で要件に合わせやすい)
  • 弱点は、照明の安定確保やレンズ汚れ対策、学習・しきい値調整に手がかかり、現場環境に引きずられやすいこと

不良の「物理的な因果」がはっきりしている場合は、厚み・荷重・電流のような“近い量”を測るほうが強い。逆に、印字の欠けや異物など“見た目”の判定が本質なら画像処理が活きます。今回はまさに前者。だからこそ、カメラを増やさない選択が合理的でした。

協働ロボットについても、同じ考え方が当てはまります。

  • まずは「やらなくていい仕事」を削る(段取り、置き場、通い箱の形状、表示の統一)
  • 次に「センサーと治具」で済むものを済ませる(厚みセンサー、バーコード読取り、重量レンジのポカヨケ)
  • それでも残る「周期性が高いけど人には負担が大きい仕事」にロボットを当てる(箱詰め・パレタイズ、サンプル採取、ラベル貼りなど)

この順番で見直すと、ロボットの“解像度”が上がります。例えば包装工程なら、1分未満タクトの袋ハンドリングを無理にロボットで追うより、下流の箱詰めを安定化し、最終のパレタイズで腰・肩の負担をゼロにするほうが効果が出やすい。基準としては「0.5人月以上の反復削減」「安全・品質リスクの顕著な低減」「3年以内の投資回収」のどれかを満たすものから着手すると失敗が減ります。

また、現場では“光”の安定が画像処理の生命線です。粉・静電気・フィルムの反射があるなら、迷わずセンサー系から検討を始めるのがセオリー。照明の囲い、レンズのエアパージ、汚れ検知の自己診断まで入れると費用は跳ねます。今回、厚み検出を主に据え、画像は印字確認など“見た目”が本質のところに限定する——この「二刀流の仕分け」が、投資を軽くして効果を重くするコツです。

最後に段取り。日付の行き違いひとつでも現場の負荷は増えます。私は最近、打合せ案内に「日時・目的・持参物」の三点セットを必ず明記し、カレンダー招待で固定化する運用に切り替えました。小さな整流が、実は一番効きます。

次の一手

  • 厚みしきい値の“現場最適化”とログ取り(1週間)
  • 現状の合否判定を時系列で残し、誤検知と取り逃しのパターンを棚卸し。結果に応じてセンサーの当て方・ガイド位置を微調整する。
  • 30分の現場ウォークで「ロボットにしない仕事」を洗い出す
  • 置き場の統一、箱の取り出し方向、ラベル位置の固定化、通い箱の色分けなど、“先に削れるムダ”を短時間で決める。効果が出たら写真で標準化。
  • 微量投入のミニPoCを卓上で
  • 卓上秤+バーコード+簡易表示でのポカヨケを試し、作業時間・ばらつき・ミス率のビフォーアフターを測定。数字が立てば、次段の自動化(計量ジグ or 協働ロボット)の是非を判断する。

📘用語メモ

  • 噛み込み:包装材が意図せず重なって巻き込まれたり、縫い工程でずれて噛んだ状態になる不良。
  • 厚み検出:センサーで通過物の厚さを計測し、重なりや縫い外れを判定する方法。
  • 画像処理:カメラと照明で撮像し、ソフトで外観・印字・位置などを判定する技術。
  • インターロック:検出結果に応じて設備を自動停止・排出する安全・制御の連動。
  • 協働ロボット:安全柵なしで人と同じ空間で作業できる設計の産業用ロボット。
  • ポカヨケ:ヒューマンエラーを物理・手順・検知で未然に防ぐ仕掛け。
  • トレーサビリティ:原料や工程履歴を追跡可能にする仕組み。
  • タクト:製品1個あたりの目標サイクル時間。
  • ROI(投資回収):投資に対してどの程度の期間・効果で回収できるかの指標。
  • PoC:Proof of Concept。小規模な実証で有効性や成立条件を確認する取り組み。