NGサンプルが動き出すと、段取りが一気に「前倒し」になる話
今日のひとり言
こんにちは杉谷です。
ある企業から届いたNGサンプルをもとに、画像検査の最終調整が動き出しました。年内の立ち合いと年明けの現地検査に向け、横展と段取りの勘所が改めて浮かび上がりました。
直近の進展と気づき
まず良いニュースとして、NGサンプルがまとまって到着し、検査アルゴリズムの追い込みをスタートできました。全型式ではないものの、類似品の横展を前提にセットを組み直せるだけの量とバリエーションが揃ったのが大きい。今回の「似て非なる」違いは、側面のケガキ線の有無・本数といった識別要素。これを「見分ける」のか「無視して同一視する」のかで、照明・レシピ・閾値の設計が変わります。現物でしか語れない議題がテーブルに並び、議論がようやく具体化しました。
スケジュール面でも前進がありました。年内の金曜日での立ち合い枠を確保し、年明けの現地検査は1月中旬で合意。別途、現地調査の枠も固まりました。移動手段や合流方法は流動的ですが、ここは「現場に無理を強いない」を優先するのが当社の流儀。結局、役者が揃うタイミングを広めに取り、到着順で段取りに乗れるよう、当日の検証シナリオを粒度小さく切り分けることにしました。立ち合いは“誰がどの便で来るか”より、“来た瞬間から何を回せるか”で決まります。
保留事項も明確になりました。最終の納入タイミングは、立ち合いでの再現性と判定一致率が合格ラインに乗ることが前提。類似品の横展も、識別ルールの整備と製品側の識別マーク運用がセットで必要です。加えて、行政の現地検査が控えているため、ログ(ある関係者)と変更履歴の管理は早めに型を決めておくべきだと再認識。ここを曖昧にしたまま走ると、年明けに手戻りの“冬将軍”がやってきます。
専門の視点から(今回の論点)
今回の論点は「NGサンプルの価値を最大化し、類似品へ横展するための設計」です。技術・工程・段取りの三層で整理しておきます。
- 光学設計と“識別/非識別”の線引き
- ケガキ線の本数や有無を識別するなら、線のコントラストと端部のS/N比を稼ぐ照明(同軸落射+偏光、斜光の当て分け)が要。逆に検査本質が寸法や欠陥検出で、ケガキ線はノイズなら、撮像段階から反射を飛ばすか、ソフトでマスクする方が堅い。どちらに倒すかを先に決めないと、光とアルゴリズムが綱引きします。
- 視野・被写界深度・固定治具は三位一体。迷ったら「少し広めの視野+マージン多めの治具」→後でROIを絞る、が迂回路のようで最短です。
- ルールベースと学習ベースの使い分け
- NGサンプルが限定的な初期段階では、線・欠け・寸法ズレのような決まり切ったパターンはルールベース(濃淡閾値、エッジ、モルフォロジ)で手堅く。学習ベースは「同じに見えて揺らぐ」質のばらつきに効きますが、負例・正例ともに分布を押さえる必要がある。今回は“識別要素が明確”なので、まずはルールベースで合格を切り、将来拡張の土台として学習器の取り付け座を確保しておけば十分です。
- どちらにせよ、閾値は“基準値±許容幅”で設計し、許容幅を現場が運用できるUI(レシピ化)に落とし込む。これが横展の肝です。
- 横展のためのプロファイル設計
- 製品群を“同一プロファイルで回せる群”と“別プロファイルが必要な群”に分ける。分け方は、(1)識別に効く幾何要素、(2)表面性状/材質、(3)治具共有可否の3軸で判定。三つ全部が一致なら完全横展、二つ一致ならパラメータ差分での準横展、ひとつなら別系統と割り切る。曖昧に一括りにしないのが、後の“謎のエラー”を減らします。
- プロファイル選択は“製品側の読み取りマーク”か“オペレータ選択+バーコード”の二択。トレーサビリティの事情で決めますが、誤選択防止は必ず二重化(画面ダイアログ+品番読み取りなど)。
- 妥当性確認(MSA)のミニマム
- 立ち合い時は、OK/NGの一致率だけでなく、再現性(同一条件・同一品の繰り返し)と再現可能性(人/機で変わらないか)を10〜30サンプルの範囲で確認。NGが不足するケースは、擬似NG(細線貼付、墨入れ、治具オフセット)で検知限界を測る“当日DoE”を仕込んでおくと、短時間でも境界が見えます。
- ログは「撮像条件」「判定スコア」「レシピバージョン」を必須項目に。年明けの現地検査までに、変更履歴と一致率の推移を一枚で語れるダッシュボードを用意しておくと、説明が一気に平和になります。
- 立ち合いの過ごし方
- 当日は「90分で核心に触れる」シナリオを。順序は、(1)現行ベースラインの再現→(2)境界事例の再検証→(3)横展パラメータの当日仮当て→(4)残課題の定量化。移動の遅延があっても、どこからでも再開できるよう、各ステップを独立させておくと強いです。
- 機材は“光源・レンズ・ケーブル・PCストレージ”に限っては二系統持ち込み。壊れるのはいつもここです。
結局のところ、NGサンプルは“証拠品”ではなく“設計資産”。横展を前提に、基準の作り方と言語化の手を止めないのが、今回の肝だと感じています。
次の一手
- 撮像条件のミニDoEを即日実施
- 変数は「照度」「角度」「露光」の3点に絞り、3×3×2の少数条件で撮像→判定スコアを併記して保存。境界の見える化を先にやる。
- 横展ルールの“1枚シート”化
- 識別要素、共通治具、プロファイル差分、オペレーション注意点をA3一枚に整理。立ち合いでの共通言語にし、そのまま現地検査の説明資料に転用する。
- 立ち合い当日の段取り固定化
- 役割分担(撮像・ログ・閾値操作・現場調整)と持ち物チェック(予備光源/レンズ/ケーブル/ストレージ/清掃具/固定治具スペーサ)を前日までに確定。万一の遅延に備え、リモート画面共有と動画記録のバックアップ手段も準備。
📘用語メモ
- NGサンプル: 不良や境界事例の現物。検査アルゴリズムやしきい値の設計に不可欠な“現場の真実”。
- 横展開(横展): ある製品・工程で確立した手法を、類似の製品・工程へ広げて適用すること。
- 画像処理(画像検査): カメラで撮像した画像を用い、形状・濃淡・パターンからOK/NGを判定する技術。
- ケガキ線: 部材の位置決めや加工の目安として引かれた細い線。検査ではノイズにも指標にもなり得る。
- プロファイル(レシピ): 検査で用いる撮像条件・判定条件の組み合わせ。製品ごとに使い分ける。
- ルールベース/学習ベース: 前者は手作りの判定ルールで処理、後者はAIなどでデータから判定モデルを学習する方式。
- ROI: 画像中で解析対象とする領域(Region of Interest)。
- DoE: 実験計画法。限られた試行で要因と結果の関係を効率よく把握する方法。
- MSA/GRR: 測定システム解析/ゲージR&R。測定の再現性・再現可能性を評価する品質管理手法。
- 判定一致率: 人の目や基準値と、検査システムの判定が一致した割合。再現性と合わせて信頼性の指標となる。

