初回正式メンテナンスで、何を“型”として残すか「ちゃんと動く」その先の安心をつくる話
今日のひとり言
こんにちは。杉谷です。
設置から約2年を迎えるある現場から、初の正式メンテナンスのご相談。トラブルがない今こそ、予防保全と運用設計を見直す好機だと感じました。
直近の進展と気づき
設置後しばらく経つあるパレタイズ工程で、「2年点検と清掃を正式にやりたい」とご連絡をいただきました。現場はこの1年半以上、特段の停止もなく安定稼働。だからこそ、初回は形式を整えた点検として、私たちがリードして実施する方針でまとまりました。給脂など日常寄りの作業はお客さま側でも可能ですが、「初回は型を作る」のが肝。ここで標準書と記録類を整え、以降の自主保全へ滑らかに引き継ぐ設計にします。
また、別案件で高可搬の協働機を使う予定との連絡もありました。メーカーや機種の違いが混在する現実に合わせ、点検観点を“機種非依存の骨格”と“機種依存の要領”に分けて管理する必要性を再確認。安全・機械・電装・ソフト・周辺治具・環境という共通フレームの上に、各機種の固有手順を載せる考え方に改めて手応えを感じています。
年末が近づき、現場の稼働がタイトになる季節でもあります。だからこそ、点検を「止める作業」ではなく「止めないための計画」に変える段取りが重要です。短時間で済む事前診断、交換候補部品の先読み、バックアップの先取り。小さな準備が、繁忙期の安心を支えると実感しています。
専門の視点から(今回の論点)
今回の論点は「初回正式メンテナンスで、何を“型”として残すか」です。単に綺麗にする・締める・給脂するだけでは、翌日からの安心は長続きしません。鍵は、計測と記録、そして移管設計です。
- 安全機能の再確認
協働モードの制限値、停止系の動作、非常停止の系統、速度・力制限が(ある関係者)通りかを実測で確認します。ここは“異常の有無”でなく“数値で残す”が大切。初回の計測値が、その後のズレの早期発見につながります。 - 機械要素の健全性チェック
アンカーと架台の緩み、ジョイントの異音・バックラッシ、ケーブル屈曲部の被覆劣化、エア配管の微漏れなど。特にパレタイズは上下動が多くサイクル数が伸びやすいので、消耗の早い箇所を重点確認します。エンドエフェクタ(吸着や把持)も、パッド摩耗やフィルタ詰まりを可視化。交換タイミングを“感覚”から“基準値”に置き換えます。 - 制御・ソフトの整備
コントローラのバックアップ、レシピや配置パターンの吸い上げ、ファームの適用状況、ログのエラー傾向解析。特に多品種のパレタイズ設定は、現場改善の積み重ねで更新されがち。初回点検で一度整理し、命名規則や保管場所をルール化すると、以後の属人化を防げます。 - キャリブレーションと基準の見直し
ツール原点、ワーク座標、必要に応じてセンサーやカメラの校正を確認。再現性の劣化はゆっくり進むため、ズレ量を測って“良否の境界線”を合意するのがポイントです。 - 清掃は目的を持って
油・粉・結露・静電気など、環境起因の不良は清掃の仕方次第で再発します。可動部に入れてはいけない洗浄剤、拭き方向、養生の仕方まで決めておくと、日常清掃に安心して引き継げます。 - 自主保全への橋渡し
日常(現場)・定期(お客さま設備担当)・年次(当社/協力先)と保全区分を分け、点検項目を3レベルに棚卸し。給脂、フィルタ交換、トルクマーキングの再確認、バックアップの周期化など、明日から現場が自走できる単位まで噛み砕きます。
加えて、繁忙期の“止められない”現場に向けては、二段階アプローチが現実的です。先に短時間の事前診断(ログ吸い上げ、外観・安全の要所確認、交換候補の確定)を実施し、必要部材を揃えたうえで本点検を最短で完了させる。これだけで停止時間は大きく減ります。点検の価値は、「壊れていないことの証明」をいかに速く、確かに提供できるかに尽きます。
最後に、機種が混在する時代の保全は“用語と単位の統一”が効きます。サイクル数、稼働時間、負荷率、停止カテゴリなどの呼び方を社内外で合わせ、チェックシートを機種横断で読める形に。人が変わっても同じ判断ができる仕組みは、現場の安心そのものです。
次の一手
- 初回正式点検パックの標準化と事前診断の導入
事前ヒアリングシート(稼働・エラー・交換履歴・バックアップ状況)を配布し、短時間の現地診断→本点検の二段構えに。チェックシートは「安全・機械・電装・ソフト・治具・環境」で統一します。 - 自主保全スターターキットの準備
消耗品(フィルタ・パッド等)、指定グリース、点検用トルクマーキングペン、簡易吸塵・養生セット、バックアップ手順書をひとまとめに。日常点検メニューを週次・月次に分け、現場掲示用の1枚に落とし込みます。 - 記録とバックアップの“居場所”づくり
点検記録、ログ、レシピを保管する共有フォルダの構成と命名規則を合意。点検のたびに“最新がここにある”状態をつくり、属人化を解消します。必要なら簡易ダッシュボードで稼働とアラームを見える化します。
📘用語メモ
- 協働ロボット: 人と同じ空間で働けるよう安全機能を備えた産業用ロボット。
- パレタイズ: 箱や缶などの荷をパレット上に積み付ける作業。
- 予防保全: 故障する前に点検や交換を行い、停止を未然に防ぐ保全手法。
- 自主保全: 現場の利用者が日常点検や簡易保全を自ら行う取り組み。
- エンドエフェクタ(ハンド): ロボット先端で物を掴む・吸着する装置。
- ツール原点: ハンドの基準位置。位置決めや動作計算の基準になる。
- キャリブレーション: 機器や座標の誤差を測定・補正して精度を合わせる作業。
- バックアップ: コントローラ設定やプログラム、レシピなどのデータを保存すること。
- ログ解析: 稼働記録やエラー履歴を分析し、異常の兆候や原因を探ること。
- 安全機能(安全停止等): 危険時に動作を制限・停止する機能。協働用途では力・速度制限も含む。

